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なのはとしょ

リリカルなのはの二次小説-ssを掲載しています。

チヴィ

第3話:喫茶翠屋へようこそ(2)【リリカルなのは2次小説】

 半ば強引に面接のため部屋に通された秋人は、それから少しの間、なのはと歓談していた。
 先ほどの女性、なのはの母は高町桃子という名前だということ、彼女が清祥大付属小学校に通っていること、家には道場があること、そんなとりとめのない話をしていると、部屋のドアがノックされる音が聞こえ、外からドアが開かれた。
 入ってきたのは先ほどの女性ではなく、翠屋のエプロンをつけた中年の男性だった。
 「あっ、お父さん」
 なのは が男の顔をみてそう言った。つまりこの男がなのはの父親であり、翠屋の店長ということになる。道場で剣術の指南をしているという話を聞いていたが、確かに体格もよくて一見すると喫茶店の店長をやっているようには見えない。
 店長ということもあり、秋人は姿勢を正して向き合ったが、しかし男の方は気を使う様子もなく秋人の顔を見るや気さくな笑みを浮かべた。
 「やあっ、お待たせしてすまなかったね。はじめまして、翠屋の店長でこの子の父親、高町士郎だ」
 堅苦しい挨拶を予想していた秋人は、少し気が緩んだのを感じながら頭をさげた。
 「はじめまして、響秋人です。先日この街に引っ越してきました」
 「おや、そうなのかい? それじゃあまだこの辺りには慣れてないかな」
 「そうですね、ちょうど街を見て回ろうと思ってたところで」
 「それじゃあ、うちのバイト募集は偶然見つけたのかな」
 秋人がその問いに首を立てに振ると、士郎はそうかそうかと頷く。
 「いやあ、偶然だとしても興味をもってくれて嬉しいね。なにせ募集の張り紙を出しても、なかなか応募してくれる人がいなくてね」
 (そりゃあ、あの内容じゃあ人も集まらないだろ……)
 士郎が笑いながら、なんでだろうねえ? と言っているのを聞きながら、秋人は苦笑いしながら心の中でツッコみを入れつつ、そんなバイト募集に半ば勢いでだが自分が応募しているのだから、この状況もおかしいよなと思う。
 「まあまあ、せっかくだから、どんなバイトか内容だけでも聞いてみてくれよ、僕も君の事はまだ何も知らないからね、面接だとか考えずに、普通に話してくれていいから」
 「はい、ありがとうございます」
 「お父さん、私もここに居ていい?」
 「おお、いいぞ、一緒に秋人君の生い立ちを聞こうじゃないか」
 二人から期待のまなざしを向けられる秋人。
 (えっ……!? 生い立ちから話すの?)
 なのはの母親もそうだが、物腰穏やかなわりに強引な所は父親も同じらしい。秋人は半分諦めつつ咳払い一つしてから、自己紹介から始めようとした時だった。今度は部屋のドアがノックなしで開かれる。そこから入ってきたのは慌てた様子の なのはの母親だった。
 「大変よっ、急に団体のお客様がいらしてお店の人手がたりないの……3人とも手伝って!」
かなり急いでいるのだろう、士郎たちを見るや口早にそう言って、また店の方へ戻って行ってしまった。
 「こりゃ大変だ、いくぞ二人とも」
 「うんっ!」
 「えっ、俺も!?」
 秋人は、またも勢いに流されそうになっているのを感じた。ここで断らなければ何かが確定してしまうような気がしてならない。
 「まあまあ、バイト体験だと思ってやってみればいいよ、もちろんバイト代はちゃんと払うから!」
 ぐっと親指を立てて有無を言わさぬ笑みを向けられると、断ろうにもそうさせてくれない。そんな秋人の手をなのはが引っ張る。
 「いこっ秋人さん!」
 なのはから屈託の無い笑顔を向けられた秋人は、まあいいかと思えてしまった。なんだか強引で、ちょっと騒がしくて、やけにあったかいこの人達と一緒に働いてみるのも悪くないと思えたのだ。
 「うっし、いくかー」
 「おーっ!」
 こうして秋人の初バイトは始まった。店内は既に客で満員。まだオーダーも知らない秋人は、今はひたすらに厨房に入り食器を洗い続ける。乾いた食器は次々に持って行かれ、代わりに追加の食器が洗場に運ばれてくる。ちなみに今の店内には、高町家の長男で大学生の恭也と長女で高校生の美由希も加わって、高町家総出で店を回していた。
 そして、ようやく店が落ち着いた頃には、空はオレンジ色に染まっていた。
 ずっと洗い物をしていたせいで、ふやけた手をほぐしながら、多少の疲労を感じながらも、やりきったことに安堵する。
 「お疲れさまー、秋人くん。今日はありがとうね、すごく助かっちゃった」
 店のパティしエールでもある桃子も、今日分の菓子は作り終わったのだろう。調理器具を片付けながら秋人に労いの言葉をかけてくれる。
 「後は私達だけで大丈夫だから、秋人君はお店の方で休んでちょうだい、士郎さんが珈琲を淹れてるから、それと、私の作ったケーキもね」
 美味しいって評判なのよと桃子は可愛く微笑んだ。
 お言葉に甘えて、エプロンを脱いで店に行くと、カウンターの奥で士郎が手招きしていた。秋人がカウンター席に座ると、すぐに淹れたてのコーヒーが用意される。白い陶磁器のカップに注がれた深い色をしたそれからは、芳ばしい香りがたちのぼる。西日が差し込む店内は、他の客もまばらで、昼時の騒がしさが嘘のように、ゆったりとした時間の流れを感じさせた。
 珈琲にミルクをほんの少しだけ垂らしてから、そっとスプーンでかき回すと、二つの色が混ざり合っていく。そして一口。
 美味しかった。焙煎された豆の香りが口いっぱいに広がって、苦みも全くきにならない。
 秋人がそんな感想を言うと、士郎は嬉しそうに、そうだろう? と言った。
 一緒に出されたケーキも、クリームをたっぷり使っているのにクドさがなく、ほどよい甘さが珈琲とよく合う。
 「どうだい? うちで働けばこんなに美味しい珈琲とケーキが食べ放題……ではないけれど、残ったときは食べれるよ?」
 士郎の言葉に、秋人は少し間を置いて口を開いた。といっても、既に返答は決まっていたのだが。
 「珈琲の淹れ方を教えてくれますか?」
 秋人の言葉に、士郎はもちろんと頷くのだった。

 ちなみに、秋人が家の事を思い出したのは、夕日も沈みかけた頃、母親から携帯に電話がかかってきたときだった。
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